バードリサーチ   ツバメ図鑑

巣作り

ツバメの巣は泥とワラで作られています

ワラに泥が絡むようにすると、泥だけよりも丈夫な巣を作ることができます。粘土質でくっつきやすい田んぼの泥は最高の巣材です。(写真  宮本桂)

古巣があるのは子育てによい場所の目印

ツバメの巣は雨に弱いのですが、濡れさえしなければ何年でも利用することができます。巣作りは大変な仕事なので、ツバメは古巣を補修して使うことで体力を セーブすることができますが、じつは古巣にはもっと重要な役目があり、それは、古巣が昨年その場所でヒナを育てたツバメがいるという目印になっているとい うことなのです。

さて、ツバメにとってよい子育て環境というのは、エサの虫がいることと、天敵が少ないことでしょう。ツバメは古巣を目印に、そうした場所を探すようです。 実際に、このようなツバメの習性を試した実験がアメリカで行われています。ニューヨーク州でツバメの営巣地にあった古巣をぜんぶ取り除いた場所と、古巣を そのままにしておいた場所とを比較したところ、古巣を取り除いた営巣地には、昨年そこにいたツバメは戻ってきましたが、新規にやってくるツバメ(前年生まれの1歳ツバメ)は少なく、 そのため繁殖するツバメの総数も少なくなりました。

アメリカのツバメは家畜小屋などで集団で巣を作っていることが多いのですが、日本の場合は戸建てやマンションの一軒にひとつの巣があることが多く、少し事 情が異なります。しかし日本の場合も、リングフォーファー萌奈美さんが伊豆諸島で行った調査によると、250m以内の距離に壊れていない古巣が多い場所ほ ど、春の早い時期にツバメやって来たそうです。なお250mというのは、伊豆諸島で調査をしたときにヒナに餌を運んでいたツバメの行動範囲ですが、他の場 所でも、子育て中は巣からあまり遠くへ行かず、このくらいの距離で虫を捕っているようです。

それから、ツバメが目印にしているのは、巣の残骸ではなく、壊れていない古巣です。巣が壊れていればカラスのような天敵に襲われた可能性や、前年に繁殖が行われなかった可能性があるので、形をとどめている巣を目印にしているようです。ツバメが使った巣は、壊さずに翌年まで残しておきましょう。巣を壊すと、ツバメがやって来る確率が下がってしまいます。

参考文献

Safran, R. J. 2004. Adaptive site selection rules and variation in group size of barn swallows: individual decisions predict population patterns. American Naturalist 164:121–131.

Shields M. William. 1984. Factors Affecting Nest And Site Fidelity In Adirondack Barn Swallows (Hirundo Rustica). Auk:101:780-789.

Ringhofer Monamie. 2014. Dispersal process of barn swallows (Hirundo rustica) breeding in Izu Islands. PhD Thesis, University of Tokyo, Tokyo, Japan.