バードリサーチ   ツバメ図鑑

毎年同じツバメが戻ってくるの?

古巣に戻ってきたのは、去年と同じツバメ夫婦なの?

ツバメについての質問ナンバーワンは、「古巣に戻ってきたのは、去年と同じツバメ夫婦なの?」ではないかと思います。ヨーロッパのツバメは人家で子育てする日本とは修正が異なり、家畜小屋に数十から数百羽が集まって巣を作ることが多いのですが、少し離れたいくつかの家畜小屋でツバメに足環を付けて調査をすると、翌年帰ってくるツバメは必ず同じ家畜小屋に戻ってきます。そのため、ツバメは生きている限り翌年もほぼ同じ場所に帰ってくると考えられています。

では、翌年も同じ巣を使うのでしょうか? 2014年のバードリサーチ大会で福岡賢造さんが発表して下さった、大阪府の河内長野市の商店街で行った足環調査の結果によると、翌年も同じ商店街に戻ってきた ツバメは約4割で、さらにその中でも4割程度が前年と同じ巣に戻っていたそうです。そうすると、オス・メスのどちらかが同じ巣へ戻ってくる率は15%くら いになります。商店街に帰還したツバメのうち同じ巣に戻らなかった6割がどのくらい離れた場所で営巣したかはお聞きしなかったのですが、商店街のどこかにラン ダムに戻っているのではなく、前年の巣の近くにやってくるのでしょう。ここまでは、皆さんの期待通りです!

同じ相手と夫婦になるの?

それでは、前年の夫婦の両方が戻ってきた場合に、また同じ相手と夫婦になるのでしょうか? 残念ながら私たちの期待に反して、翌年は別の相手と夫婦になるツバメが多いことが分かっています。

新潟県上越市で新井絵美さんと長谷川克さんが行った調査では、前年のツバメ夫婦がどちらも無事に戻ってきたケース26組のうち、再び夫婦になったのは9組 だけでした。面白いことに「再婚」した9組はすべて、オスがメスより先か、オス・メス同日に調査地に到着したケースだったそうです。一方、メスがオスより 先に到着した場合は、別のオスと夫婦になってしまったそうです。そう聞くと、ツバメのメスはちょっとひどいんじゃないかと思われるかもしれませんが、人間には分からないツバメの事情があるのでしょう。私の想像ですが、 ツバメは翌年も生きて戻ってこられるとは限りませんから、その年にできるだけ多くのヒナを残さないといけません。オスは去年一緒にヒナを育てたメスと再婚 した方が、繁殖能力が分からないメスと結婚するよりも、確実に卵を産んでもらえる可能性が高いでしょう。しかしメスの側は、もっと多くのエサを運んでくれ るオスや、(ヒナに遺伝する)体格のいいオスを選んだ方が得なのかもしれません。ツバメの平均寿命は二回繁殖に戻ってこられる程度ですから(実は7~8割は1歳まで生き残れないのですが、それは平均寿命から除いています)、パートナーを選ぶときには子孫を残せる条件を厳しく見極めているのではないかと思います。まれな事例ですが、上記の大阪の調査では4年連続して同じ巣で、同じ夫婦がヒナを育てた例もあったそうです。

ヒナは翌年どこへ行くの?

鳥類や哺乳類では、一般的に生まれた子供は親の居場所から離れた地域に行くことが多いようで、ツバメも例外ではありません。新潟県六日市氏の木下弘さんの調査によると、1978-1990年の間に足環を付けたヒナ6135羽のうち、生まれた場所の近くで繁殖したのは210羽(3.4%)で、オスが160羽、メスが50羽でした。

1歳ツバメの帰還率は場所によって異なるようです。スペインとデンマークでヒナに足環を付けた調査(※)では、翌年同じ場所で繁殖した一歳ツバメは両地域ともオスが多かったのですが、スペインではオス・メス合わせて19%のヒナが産まれた地域に戻ったのに対して、デンマークでは3%しか戻りませんでした。何年も調査を続けた結果、スペインの調査地ではその場所で生まれたオスの方が、別の場所で生まれてそこにやってきたオスよりも寿命が長かったので(メスは差がありませんでした)、1歳オスが同じ場所に戻ってくるのは、勝手を知る場所に戻ることに何らかのメリットがあるからかもしれません。

(※)Javier Balbontín, Anders P. Møller, Ignacio G. Hermosell, Alfonso Marzal, Maribel Reviriego, Florentino de Lope. 2009. Geographic patterns of natal dispersal in barn swallows Hirundo rustica from Denmark and Spain. Behav Ecol Sociobiol 63:1197–1205 http://www.springerlink.com/content/m4528uk2551m26q0/