飛 行

本当は早く飛べないツバメ

九州新幹線ツバメや佐々木小次郎のツバメ返しのように、ツバメと言えば速く飛べる鳥だというイメージがあります。インターネットで検索してみるとツバメが時速200kmで飛べるという情報がよく見つかるのですが、そんなに速くは飛べません。 ツバメを風洞で飛ばせた実験では、水平飛行で時速45km、下降時の最高速度でも時速70kmが最高でした。渡りの時期にヨーロッパから海を越えてアフリカ沿岸に飛来したツバメをレーダーで観測した結果も時速45kmなので、このくらいが水平に飛ぶときの巡航速度なのでしょう。天敵を追い払うような緊急時にはもう少し速く飛ぶことができるかもしれませんが、ツバメの体のつくりによる制約で、それほど早く飛ぶことはできません。ツバメが速く飛べると勘違いされてきたのは、人のすぐ目の前で、ヒラリと急旋回して飛ぶ鮮やかさから受ける印象のせいかもしれませんが、小回りが効くのは翼の空気抵抗が大きいため、そのことがツバメが速く飛べない原因になっています。

飛翔性昆虫を捕ることと渡りのために特化した翼

生きものの体は生存に最適な形へと進化してきました。ツバメの飛行に求められる能力のひとつは、エサの飛翔性昆虫を捕まえるために機敏に方向転換したり、小さなエネルギーで長時間飛び続けることです。そのために、ツバメは鳥の中でも翼面荷重(体重に対する翼面積の比率)が小さな翼をしています。飛行機でも同じですが、翼面荷重の小さな翼は小回の利きますから曲芸飛行に向いています。さらに高い揚力(浮かぶ力)を発生させるので、羽ばたきをしない滑空飛行で飛ぶことにも向いています。

上昇しながら虫を捕っているのをよく見かけます。速度を落として虫をキャッチしやすくするのか、または空が背景の方が虫を見つけやすいのでしょうか。(写真 宮本桂)

そしてツバメに必要なもうひとつの能力は長距離の渡りをすることです。鳥類では、長い距離を渡る鳥ほど長い翼をしています。これはグライダーの翼が長いのと同じ理由で、滑空飛行をするときに翼の周囲の気流の乱れが小さくなるためです。例えば、春にアフリカからヨーロッパへ渡るツバメは、繁殖地に早く到着するオスほど長い翼をしています(※1)。これは気象条件が不安定な早春に長距離を飛ぶには長い翼を持つ個体ほど有利なせいだと考えられていて、ツバメという種全体でも、そうした翼の形に進化してきたのだと思われます。

しかし、ある能力に特化すること別の能力を犠牲にすることでもあります。大きく長い翼は肩に負担がかかるため、ツバメは速く羽ばたくことができません。そのため、ツバメは地面に降りているときに襲われると、すぐに飛び立って逃げることができないはずです。だからツバメはあまり地面に降りないし、水を飲むときでも飛びながら飲むのではないでしょうか。ツバメと対照的なのが地面で餌を取るスズメで、敵が近づいたら急いで飛び上がれるように小さく短い翼をしています。この翼を素早く羽ばたくことで、スズメは離陸から75センチの距離で時速10kmまで加速できます。しかし巧みには飛べないようで、地面と電線や屋根のあいだを直線的に飛んでいる姿を見ることが多い気がしますし、スズメは長い距離を渡ることはありません。

羽ばたき飛行だけでなく、翼を広げた滑空や、翼をすぼめた慣性飛行を組み合わせて効率よく飛びます。(写真 宮本桂)

慣性飛行は羽ばたき飛行の間に短く行います。翼を半分折り曲げて空気抵抗を減らして進みます。(写真 宮本桂)

尾羽のV字も飛行と関係している

翼だけでなく、尾羽の形も生存に適した進化の結果として形作られています。ツバメが長い尾羽をしている理由のひとつは、長い尾羽はメスにとって魅力的なオスの目印になるため性選択によって長い尾羽のオスほど多くの子孫を残したからです(詳しくは別項で説明します)。そしてもうひとつの理由が、長い尾羽には飛行能力を高める機能があるということです。尾羽のV字が深いほど敏捷な動きができ、滑空時の揚力が高まる反面、飛行速度は遅くなるそうです。

こうした尾羽の機能がツバメの暮らしのどんな局面で役立っているかを調べるために世界中のツバメ類の尾羽のV字の深さと生態との関係を調べたところ、留鳥に比べて渡りをするツバメ類ほどV字が深く、揚力を高める能力が長距離の渡りに役立つことが分かりました(※2)。さらに飛ぶ力が強い大型の虫を食べるツバメの仲間ほどV字が浅くなり、速度を重視した尾羽の形状になるようです。また2016年2月に寒波のためにリュウキュウツバメの死亡が増えた奄美大島で、生存・死亡個体の尾羽を比べたところ、生き残った個体の方が尾羽のV字が浅くなっていました(※3)。リュウキュウツバメはツバメよりも大きめの昆虫を餌にしているため、速く飛べる尾羽の方が餌が少ない冬に有利だったと考えられます。

参考文献

※1 Wing Characteristics and Spring Arrival Date in Barn Swallows Hirundo rustica Piotr Matyjasiak, Izabela Olejniczak, Paweł Boniecki, and Anders Pape Møller Acta Ornithologica. 2013.

※2 Evolution of tail fork depth in genus Hirundo. M Hasegawa, E Arai, N Kutsukake. Ecology and evolution. 2016.

※3 Natural selection on wing and tail morphology in the Pacific Swallow. Hasegawa, M. & Arai, E. Journal of Ornithology. 2017.